1ヶ月単位の変形労働時間制について
前回で、1ヶ月単位の変形労働時間制の記載をいたしました。
1ヶ月単位の変形労働時間制とは、1週間超1ヶ月以内の期間と起算日を特定することで、その期間内において、所定労働時間が、週平均40時間以内になるようにシフト表にて、あらかじめ提示する方法です。
この制度を利用すれな、1日8時間、週40時間を超える日や週があっても、残業時間とカウントしなくてもすみますので、職員の労働時間を柔軟に設定することができます。
多くの場合、1ヶ月単位で設定し、その起算日は、給与締め日の翌日とすることが多いです。
1ヶ月間で、シフト表にて設定できる労働時間は、
- 40時間×(その月の暦日数/40)
以内とします。
30日の月ならば、約171時間、31日の月ならば約177時間以内となります。
次に、残業時間の計算方法です。
- 1日については、8時間を超える時間を定めた日はその時間、それ以外の日は8時間を超えて労働した時間
- 1週間については、40時間(特例措置対象事業場は44時間)を超える時間を定めた週はその時間、それ以外の週は40時間(特例措置対象事業場は44時間)を超えて労働した時間(①で時間外労働となる時間を除く)
- 対象期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間(①または②で時間外労働となる時間を除く)
と上記3つの観点から計算します。
正直言って、とても面倒です。
実務上では、あらかじめ作成したシフト表から余分に仕事をした分を残業時間として取り扱っております。
法律上は、細かくチェックしていくともっと残業時間を少なくできますが、事務手間に膨大な時間がかかるため、このような方法にておこなっております。
この方法がよいかどうかは、その事業所によって判断は分かれるところでしょうね。
ただ、現実問題として、1ヶ月前までに、月単位で各人ごとのシフト表を作成することができるかどうかというのがあります。
この変形労働時間制を採用するには、作成される勤務ダイヤの内容、作成時期や作成手続き等に関する就業規則等の定めなどを明らかにした上で、就業規則等による各週、各日の所定労働時間の特定がされていると評価し得るか否かを判断する必要がある、との判例があります。(大星ビル管理割増賃金請求時間・最一小判平14.2.28)
通達では、
勤務ダイヤによる1箇月単位の変形労働時間制を採用する場合、各人ごとに、各日、各週の労働時間を就業規則においてできる限り具体的に特定すべきものであるが、業務の実態から月ごとに勤務割を作成する必要がある場合には、就業規則において各直勤務の始業終業時刻、各直勤務の組合せの考え方、勤務割表の作成手続及びその周知方法等を定めておき、それにしたがって各日ごとの勤務割は、变形期間の開始前までに具体的に特定することで足りる。(昭和63年基発150号)
とされております。
では、何日前までシフト表の変更が可能なのでしょうか。
シフトの初日の前日までに、勤務日、各勤務日の始業終業時刻が確定すればよいと考えます。
一方、シフトがスタートした後に、シフト表を変更することは可能なのでしょうか。
横浜土木技術センター事件では、
1ヶ月単位の変形労働時間制においては、会社が法定労働時間を超えて労働させることが可能になるため、各日及び各週の労働時間を具体的に特定させることによって、従業員の生活設計に与える不利益を最小限にとどめる必要がある。
したがって、就業規則に、従業員の生活に大きな不利益を及ぼすことのない変更条項を定めることは、労働基準法第32条の2によって特定を要求している趣旨に反するものではない。
ただし、就業規則の変更条項は、従業員から見てどのような場合に変更が行われるのかを予測できる程度に変更事由を具体的に定めることが必要である。
一方、変更条項が、従業員から見てどのような場合に変更が行われるのかを予測できる程度に変更事由を具体的に定めていない場合は、会社の裁量で労働時間を変更できることになるから、労働基準法第32条の2に定める1ヶ月単位の変形労働時間制の制度の趣旨に合致しない。
つまり、そのような変更条項は、労働基準法が求める特定の要件に欠けるもので違法、無効となる。
そこで、就業規則の「会社は、業務上の必要がある場合、指定した勤務及び指定した休日等を変更する」という規定を見ると、具体的な変更事由を明示することなく、どのような場合に変更が行われるのかを予測することは不可能であるから、労働基準法第32条の2が求める特定の要件に欠けるもので違法、無効というべきである。
以上より、勤務指定を変更して労働した時間は所定労働時間には当たらず、所定外労働時間として割増賃金の支給対象となる。
と判例されております。
この内容によれば、就業規則にその定めがあることを前提に、その変更条項が労働者からみて予測可能な程度に変更事由を具体的に定めていることを条件に可能となる、と解釈できます。
では、そのような規定を定めることが現実的に可能かのかどうか、にかかわっております。
事業所によって事情は異なりますが、法律上にハードルは思ったより高いといわざるを得ません。